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トピックス&ニュース

沖縄県八重山郡竹富町で実施した「ゆいまーるワークショップ2019」が終了(第4報)
~内発型地域再生手法「寄りあいワークショップ」を活用して福祉のまちづくりを~

 アルスヴィータ(一社:地域医療・福祉研究所:略称:ARSVITA=アルスヴィータ、中野区弥生町)は、 沖縄県竹富町 (西大舛 髙旬町長、沖縄県石垣市美崎町)から受託した「令和元年度竹富町地域福祉活動事業」として「ゆいまーるワークショップ2019」を西表西部地区(祖納・干立・白浜・船浮)と黒島の2カ所で実施してきました。この度、準備も含めて5カ月間とりくんだワークショップが終了し、その成果をまとめたパンフレット「ゆいまーるワークショップの記録」を作成しました。このパンフレットは、竹富町のワークショップに参加できなかった人たちも含めて配布されています。今回は、簡単にその内容をまとめてご報告します。


▲竹富時「第1回ゆいまーるワークショップ」様子

パンフレット「ゆいまーるワークショップの記録」の概要紹介

1.「ゆいまーるワークショップ」とは何か ~経緯と目的~

 「ゆいまーるワークショップ」は、山浦晴男氏(千葉大学大学院特命教授)が考案した『寄りあいワークショップ』(「地域再生入門 寄りあいワークショップの力」ちくま新書.2015)を福祉の分野に応用して住民主体の福祉のまちづくりに活かそうとするとりくみです。

 (一社)地域医療・福祉研究所では、2018年度に竹富町からの委託で実施した「ぱいぬ島共生意識・要求アンケート調査」(40歳以上の町民全員を対象におこなった暮らしと福祉の調査、対象者2,134名、回答者859名、回答率40.3%。「ぱいぬ」は沖縄の方言で「南の」の意味)と「“結”カフェ」(町内8カ所でアンケートの調査結果の報告会を兼ねて開かれた町民自主参加の懇談会。125名が参加)のとりくみを通じて明らかになった島・地域ごとの暮らしと福祉の要求を実現するための仕組みづくり、住民主体の医療・福祉サービスづくりの方法として「寄りあいワークショプ」の技法に注目し、街と相談してワークショプを実施することにしました。

 今回は山浦先生にも西表西部のワークショップで直接指導をしていただいて実施しました。

 名前の「ゆいまーる」は、沖縄の方言です。「ゆい」は「結ぶ・雇用」、「まーる」は「順番」を表わし、労働力を融通し合う制度を意味します。

 今回は、その精神で医療や福祉を考えようと町役場の人がワークショプ名に採用しました。

2.「ゆいまーるワークショップ2019」の内容と結果

 今回の「ゆいまーるワークショップ2019」は、2カ所でとりくみましたが、その流れを簡単に紹介します。黒島では、10月から、西表西部では11月から、月に1度、3時間程度の時間でワークショプを開催しました。参加人数によってグループ分けを行い、1グループは6~7人程度にしました。


▲グループ作業の様子(第1回)


▲グループ作業の様子(第2回)

(1)事前に「外部から見た資源写真地図」をつくる

 まず、事前にファシリテーターなど外部の者が地域の人の案内で半日~1日程度地域を視察して「気になったこと」、「素晴らしいと思うこと」などを写真に収め、それをまとめて「外部から見た資源写真地図」を作成しました。この地図を1回目のワークショップの最初に報告し、地域の人の論議の呼び水とします。地域住民にとっては当たり前のことが外部から見ると素晴らしい資源に映ることも多く、新しい視点や論議を巻き起こしました。

(2)「意見地図」の作成

 1回目では、住民同士で「この地域をどうしたいか」、「どのような姿になってほしいか」、「地域の困りごとは何か」などを住民同士で話し合い、意見を出してもらいます。その後参加者一人ひとりに3枚ほどのカードを渡し、話し合いの中で発表した意見で大事だと思う項目を文章にし、会場全体に発表します。発表された意見は会場内の模造紙に張り出し、似た意見のカードを一か所に集め、また、関連のある意見の集団をその近くに配置して、意見集団の内容を要約したタイトルをつけ、関連性を書き込み「意見地図」を作成します。

 そして、タイトルをつけた意見集団ごとに「どれが重要だと思うか」という視点で全員が投票を行い、順位付けをすします。その結果が「重要度順位」です。

 黒島と西表西部地区の「重要度順位」は以下の通りです。

【黒島重要度順位】

1位: 福祉などの人材・仕事づくり 27点
2位: 土・日・祝日の医師の確保 26点
2位: 船便対策 26点
4位: 元気な人も集えるサロン 24点
5位: 警察パトロール強化 22点
6位: 移動サービスが欲しい 19点
7位: 福祉・健康の啓蒙活動 16点
7位: 医療・福祉の施設がほしい 16点
9位: 単身者用住宅の整備 15点
10位: ごみ対策 12点
10位: 道路の整備 12点

【西表西部重要度順位】

1位: 離島ゆえの医療体制の不安 38点
2位: 高齢者の交通手段が不便 25点
3位: 在宅支援体制の不備 22点
4位: ゆんたく広場づくり 14点
5位: 助け合って日常生活を楽しもう 10点
6位: リーダーのなり手不足 9点
7位: 地域の歴史遺産の発掘と伝承 7点
7位: 一人暮らしと子育て世代のマッチング 7点
9位: 地域活動グループの結成 5点
9位: 電波障害で困る 5点

 次に、この住民が取り上げた課題が解決されるよう地域にある「資源探し」を行ないます。この 「資源探し」はいわば次回までの宿題です。2回目のワークショップまでに参加者一人ひとりが課題を解決するための資源や改善箇所、問題だと思う場所を写真に写して持ってきてもらいます。スマホや携帯でとってもらうのですが、今回は高齢者も多く急遽使い捨てカメラを購入してお渡ししました。

(3)「資源写真地図」の作成

 2回目のワークショップでは前回宿題だった写真を活用し、地域の実態把握を行います。まず参加者がとってきた写真を1枚ずつ出し合い、似たような写真を寄せ集め、最も端的に特徴を表現する写真を選びだします。絞り込んだ写真を模造紙の上に貼り、それぞれの写真に「なぜこれを選んだか、どういう意味があるのか」などの説明文を書き、また関連のある写真を近くに配置して関連性考えながら、グループ分けして、グループごとにタイトルをつけて「資源写真地図」を作成します。この「資源写真地図」で地域再生に活かす地域の「資源」や「宝」を可視化し、共有することができます。

 黒島と西表西部地区の意見地図の例は以下の通りです。

【黒島資源写真地図】

【西表西部資源写真地図】

(4)「アイデア地図」と「実行計画表」の作成

 3回目のワークショップまでに再び事前の作業を参加者にお願いします。参加者一人ひとりが「第1回のワークショップで出た重点課題の解決のために何をしたらいいのか」「第2回のワークショップで作成した『資源写真地図』で可視化、共有された地域の資源や宝をどう活かすか」という視点で、各人の考えやアイデアをイラストに描いてもらいます。

 アイデアは一人3枚程度のカードにイラストにして描き解説をつけて持ち寄ってもらいますが、描けなかった人にはワークショップの最初にみんなの助けを受けながら書きます。「イラスト」にするのは具体的なイメージを参加者間で共有し、わかりやすい実現可能な実行計画にするためです。

 その後、一人ずつイラストアイデアカードを発表してもらい、似たアイデアごとに模造紙上にグループを作り、グループごとに内容を要約したまとめを書き出します。

 全員が発表を終えたら全員が投票してアイデアのグループごとに優先度を決めます。

 次に優先度の上位10位までについて実行計画表を作成します。アイデアについて難易度(簡単、普通、難しい)、目標時期(1年以内、2~3年以内、4~5年以内)、主体者(住民、行政、協働)を決める。どれほど達成が難しいか、いつまでにできるのか、住民と行政のどちらが主体的に行うかを参加者が考え話し合います。そしてその結果を受け、どのアイデアから手を付けるか着手順位を決定し、参加者全員にどのアイデアに関わりたいかを第1候補から第3候補まで記入してもらいます。この結果を実行計画表にし、着手順位の上位のアイデアから実践を始めます。

 黒島と西表西部地区の実行計画方は以下の通りです。

【黒島に住み続けるための取り組み実行計画表】(※個人名等は省略した)
着手順 優先度 アイデア項目 難易度 実施時期 主体者
1 3 漂着ごみの処理やリサイクルの仕組みづくり C 1年以内 行政
2 2 お年寄りと幼児が集える複合施設 A 4~5年 住民と行政の協働
3 6 福祉人材移住計画 A 2~5年 行政
4 5 港の荷下ろし用のベルトコンベア C 1年以内 住民と行政の協働
5 6 のんびりいろいろできるサロンづくり B 1~3年 住民と行政の協働
6 4 島の食材を生かした商品づくり B 1年以内 住民
7 1 皆で集える学びの場づくり B 1年以内 住民と行政の協働
8 9 黒島の夜空を活かす街灯 C 1~3年 行政
9 6 島内での移動サービス C 1年以内 住民と行政の協働
9 9 古い自転車の回収システムづくり B 2~3年 住民と行政の協働

注)難易度 Aランク:難しい Bランク:普通 Cランク:易しい

【西表島西部に住み続けるための取り組み実行計画表】(※個人名等は省略した)
着手順 優先度 アイデア項目 難易度 実施時期 主体者
1 1 避難経路の充実 A 1年以内 行政
2 3 航路安全灯の整備 C 1年以内 行政
3 2 地域の人が皆で憩える場所づくり B 1年以内 住民と行政の協働
4 6 皆が利用しやすい様に公民館の開放 C 1年以内 住民
5 6 白浜港の船とバスの接続 B 1年以内 住民と行政の協働
6 4 空き地、空き家を利用した定住促進 B 2~3年 住民と行政の協働
7 9 町域中心としての役場移転 A 2~3年 住民と行政の協働
7 10 西表の星空観察 C 1年以内 住民
9 4 不安のない終活が迎えられる地域の仕組みづくり A 4~5年 住民と行政の協働
10 8 日用雑貨の移動販売車 A 4~5年 住民
11 10 空き地を利用した野菜作り C 1年以内 住民

注)難易度 Aランク:難しい Bランク:普通 Cランク:易しい


▲Wアイディア地図の前で話し合う様子


▲投票で順位付けされたアイティア

3.今後の課題

 今後は、この実行計画ように基づき、住民自らが実行組織を立ち上げ実践していくことになります。その中では行政は支援の役割をしつつ、必要に応じて専門家やNPOなどの手を借り実践することが求められます。また半年か1年ごとに振り返りの会議を持ち、必要なら、次の計画立案のための話し合いを行うことも必要です。

 (一社)地域医療・福祉研究所は引き続き、実行計画の実戦段階についても支援を行い、住民主体の医療や福祉づくりの研究を深めたいと思います。

【参考情報:第1回から第3回ゆいまーるワークショップの報告】

<お問合わせ先>

一般社団法人 地域医療・福祉研究所 電話・Fax:03-4283-4360

※本研究所は、地峨の健康・医療・福祉の問題を住民が主体的に解決するために、自冶体や協同組合などの敬策づくりと事業開発に資する調査・研究・実践の組織を支援する非営利型の社団法人です。略称:アルスヴィータ(ラテン語略称:ARSVITA)。